ピロリ菌

保険適用が広がったピロリ菌の検査・治療

胃がんをはじめとするいくつかの病気の原因とされ、その除菌治療の普及が胃がん予防の強化につながると期待されるピロリ菌ですが、かつては胃・十二指腸潰瘍など一部の病気に対して除菌治療を行った場合にだけ保険診療が適用されていました。
しかし2013年に行われた保険診療の適用範囲拡大に伴って、従来は適用外だった慢性胃炎についてもピロリ菌感染が原因であることが一定の条件のもとで確認されれば、除菌治療に保険診療が適用されることになり、今に至っています。

現在、日本人の2人に1人が感染しているといわれるピロリ菌に対して、除菌治療を受けやすい環境が徐々に整いつつあることで、ますます胃がんの患者数減少への期待が高まっています。

ピロリ菌とは

腹痛ピロリ菌、正式名称ヘリコバクター・ピロリは、人の胃の粘膜に感染・生息するらせん状(ヘリコ)の細菌(バクター)の一種で、1983年と比較的近年になってから発見されました。発見された場所が胃の出口付近にある幽門と呼ばれる部分だったため、幽門を意味するラテン語のピロルスという単語から、ピロリと名付けられています。
この発見により、胃酸の分泌によって強い酸性下にある胃の内部には細菌が生息する余地はないというそれまでの考え方が覆されるとともに、胃の粘膜に含まれる尿素から分解したアンモニアを用いて周囲の酸を中和するというピロリ菌の生息メカニズムも明らかになりました。

こうしてピロリ菌が発見された後も研究は進められ、やがてそれまでは胃酸の分泌過多によるものとされてきた胃がんや胃・十二指腸潰瘍などの原因の大半が、ピロリ菌であることも徐々に判明するに至りました。

ピロリ菌と胃・十二指腸潰瘍

ピロリ菌は自身の持つ数本の鞭毛(べんもう)をドリルのごとく回転させながら胃の粘膜に潜り込むと、そこでサイトトキシンと呼ばれる毒素を産出し、粘膜の持つ酸への耐性を弱め始めます。耐性の弱まった粘膜が胃酸によって損傷を受け始めると、今度はそこに血液中の白血球やリンパ球が集まってきて、毒素を排除するための防御反応を起こします。

この反応がいわゆる炎症と呼ばれるものであり、その結果として胃炎が起きたり、さらに炎症が続くことで胃や十二指腸の粘膜が深く傷ついて潰瘍が生じるまでに至ると考えられます。

ピロリ菌以外の要因

正常な胃の粘膜は、強い酸性を持つ胃酸に対して十分な耐性を有しています。しかし、何らかの原因でその耐性が弱まったり、耐性はそのままでも胃酸が過剰に分泌されたりすると、本来拮抗していた胃酸と粘膜の力関係が崩れて、粘膜が損傷を受けやすい状態に陥ります。
ピロリ菌以外でこうした状態を招く原因として近年注目を集めているのが薬剤です。中でも痛みや炎症などを抑える効果を持つ非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、服用を続けると胃の粘膜に損傷を受けやすい状態をもたらすことが分かっています。

こうして損傷を受けやすい状態になった胃の粘膜は、胃酸からの攻撃によって炎症を起こしやすくなります。その結果、胃炎を皮切りとした胃・十二指腸潰瘍が起きたり、胃炎が慢性化して粘膜の萎縮が生じることで胃がんが発生するような事態に進展することもあります。
一方、ストレスや飲酒、喫煙、刺激物の摂取などは、胃炎や胃・十二指腸潰瘍の発症とともに現れる諸症状の悪化を助長するものとして知られています。

ピロリ菌の検査

ピロリ菌に感染しているかどうかを調べる検査には、上部消化管内視鏡(胃カメラ)を用いるものと用いないものがあります。

内視鏡を用いる検査

内視鏡で胃の内部の状態を観察すると同時に粘膜を採取し、採取した粘膜を使った以下のような検査でピロリ菌の有無を調べます。

  1. 培養法
    採取した胃の粘膜でピロリ菌を培養し、菌が増えるかどうかを調べます
  2. 迅速ウレアーゼ法
    ピロリ菌が産出するウレアーゼという酵素が胃の粘膜に含まれる尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解する働きを持つことを利用して、採取した胃の粘膜をアンモニアで色が変化する薬につけることでピロリ菌の有無を調べます。
  3. 組織鏡検法
    採取した胃の粘膜を特殊な色で染めて、顕微鏡でピロリ菌の有無を調べます。

内視鏡を用いない検査

内視鏡を用いずに、以下のような検査でピロリ菌の有無を調べます。ピロリ菌の除菌治療後、除菌の判定のために行われるものもあります。

  1. 尿素呼気試験
    試験用の薬の服用前と後、それぞれの呼気に含まれる二酸化炭素の比率でピロリ菌の有無を調べます。ピロリ菌が産出するウレアーゼという酵素が胃の粘膜に含まれる尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解する働きを持つことを利用した検査で、簡単かつ最も高い精度を誇ります。
  2. 抗体検査
    採取した血液や尿、唾液などの中に、人がピロリ菌に感染した時に作り出す抗体が含まれているかどうかでピロリ菌の有無を調べます。
  3. 便中抗原検査
    採取した便の中にピロリ菌の抗原が含まれているかどうかでピロリ菌の有無を調べます。

ピロリ菌の除菌治療

検査の結果、ピロリ菌の感染が確認されたら、薬剤を用いた除菌治療が開始されます。
まず、一次除菌では胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬とピロリ菌を除去する2種類の抗菌薬を1週間服用し続け、服用終了から約1ヶ月の経過後に除菌の効果を判定します。この方法によって92%前後の方が除菌に成功するといわれていますが、失敗した場合には二次除菌へと移ります。

二次除菌は、抗菌薬の組み合わせを変更した上で一次除菌と同様のスケジュールにて行われます。この方法によって、さらに約98%前後の方が除菌に成功するといわれています。
なお、二次除菌にも失敗した場合には三次除菌を行うことも検討されますが、保険診療が適用されるのは二次除菌までとなっております。当院では、自費治療となる三次除菌やペニシリンアレルギーの患者さんについても行っております。
※これまでの除菌経過や検査結果がわかる方は、できるだけ紹介状や検査結果のコピーなどをご持参下さい。

除菌成功後も要注意

ピロリ菌の除菌に成功しても、胃がん発症のリスクが完全に消失するわけではありません。除菌後胃がんも確認されており、ピロリ非感染者よりは胃がんのリスクはあります。ピロリ菌の除菌により胃がんのリスクは軽減できますが、無くなったわけではありません。また胃がんの発症には喫煙や塩分の過剰摂取など、ピロリ菌以外にもいくつかのリスク要因が指摘されています。
そのため、除菌成功後も内視鏡検査を定期的に受けて、胃の内部の状態を確認し続けていくことが大切です。具体的には、胃がん発症のリスクが高いとされる粘膜の萎縮が見られる方は1年に1回の、それ以外の方は2~3年に1回のペースでの検査が望ましいといわれています。

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